2012年5月12日土曜日
無計画リレー小説 第九話
【登場人物】
古屋勇太‥‥十九歳。小説家志望のフリーター。祖父の営む古書店でアルバイト中。
美園さおり‥‥十七歳。高校生。勇太の幼馴染で、美園屋青果店の一人娘。
古屋繁‥‥勇太の祖父。古書店を営んでいる。
古屋一雄‥‥勇太の父。
ジェイムズ・J・ジェイムズ‥‥伝説の作家。
唯一髪‥‥モヒカン。
美園軍司‥‥さおりの父。両刀使い。
James・J・ James
ジェイムズ・ジェイ・ジェイムズ
じぇいむずじぇいじぇいむず
ジェイムズはジェイムズであってそれ以外の何者でもなくジェイムズである。
ジェイムズのものはジェイムズへ。
イサクの息子にしてイスラエルの民の祖、ヤコブの名に由来するこの姓名、様々な変遷をたどり多くの国の言葉に兄弟を持っている。
英語ではジェイムズ、あるいはジェイコブ。親しければジミーにジム。
姓と名前、両方に適用できる名詞ということでやはりというか、案の定というか、ジェイムズ・ジェイムズというハープ奏者が現実にいたりもする。
そしてまたややこしいことにジェイムズ・J・ジェイムズという作家がいる。
Jと記載されているミドルネームが何ぞやというのが大いに気になるところではある。
やはりここはジェイムズであろうか。あるいは全く関係なくジョシュ、ジェイソン、ジャックにジョンなどといった全く期待はずれなものかもしれない。
何の意味もなくジェイというのもありえなくはない。
もしかしたらJudahなんてことも……?ユダ……猶太……勇太?
いや、まさまさか、そんなわけ……。
閑話休題
「まだ、その時ではなかろうて」
一雄の鳩尾を強打した拳の主は、金髪碧眼の男。右腕だけが奇妙に肥大化し、鉱物を思わせる鉛色の光沢を持っている。
ジェイムズ・J・ジェイムズである。
「ぐ、とうとうこの階層まで登ってきたか」
「たやすいこと、これだけ物語が無計画に拡大して行けば、もはやメタ階層とて安全ではないのだよ」
動揺の色を顕にする一雄に対して、繁は落ち着き払った調子でジェイムズを見据えている。
「無理はするものではないぞ、ジェイムズ」
「無理?何のことかな?」
「では、問う。貴様の真の名は?」
「馬鹿な。我が名はジェイムズ。ジェイムズ・J・ジェイムズである!」
「はずれだ」
金色の髪が次第に色を失い、碧色の目に濁りが生じる。はっきりとしていたはずのジェイムズの存在感は次第に薄れ始め、ぼんやりと、とらえどころのないものとなる。
「貴様ぁ何をしたぁ!?」
「たとえ偉大な作家であろうとも、己自身の物語を諦めた貴様等に我が孫が負けるはずがないのだ!往ね!ここは貴様の来るべき場所ではない!!」
遠くまで響くような断末魔。
とても遠くへ響いていく。
とても、とても、遠い場所。
例えば、火星とか。
「ジェイムズの反応が消えたよ、ジェイムズ」
「やはりまだ早すぎたのかな、ジェイムズ」
「ジェイムズの代わりはいくらでもいるよ、ジェイムズ」
「そうだな、ジェイムズ」
火星の丘の上、5人のジェイムズが天を仰ぎながら、感情のこもらない言葉を交わしている。
「目標の様子はどうだ、ジェイムズ」
男型のジェイムズが問う。
「やっと目を覚ました様子だよ、ジェイムズ」
女型のジェイムズが答える。
「ではまずは小手調べといこう、ジェイムズ。量産型ジェイムズを目標を中心とし円周上に展開。対角線上の味方に注意しつつ、包囲、そして潰せ」
男か女かわからないジェイムズが指示を出す。
それをもはや人間の形ですらないジェイムズが原稿用紙に書き連ねていくのだ。
「軍神の星で戦争なんてなかなか粋な展開じゃないかね?ジェイムズ」
目を覚ませば何時もと変わらぬ火星があって、いつもと変わらぬ光景が、広がっていなかった。
白色の鎧に身を包んだ何者かが、勇太たちの様子を窺っている。手には銃をもち、鎧の方には「J」の文字が刻まれている。
その兵士たちが全方位に一定間隔で並んでいる。
「味方?」
「そんなわけないでしょ」
兵士たちはじりじりと距離を詰め始め、勇太達を射程距離に捉えつつある。
「さおり、大根は!?」
「この前全部おろしちゃったわよ!」
慌てふためく二人を他所に、ジェイムズたちの進軍は止まらない。
「考えて!」
「え?何を!?」
「思い描くの!思いつく限りの強い武器を!強い兵器を!そして宣言するの「いでよ!」って」
さおりの意図はわからなかったものの問い返すことはやめた。
いつだってさおりは間違っちゃいない。
間違っているのは何時も……。
邪魔な考えを振り払い、今は思考に集中する。
武器、兵器、強いやつ。
ジェイムズたちは立ち止まり銃を構える。狙いを定め、引き金に指をかける。
「いでよ!」
その時、突然閃光が走り、一陣の雷が勇太とさおりの目の前に落ちる。
小さなクレーターの中心に男の影があった。
長身にして、筋骨隆々、頭にはねじり鉢巻、腰には褌、それ以外の衣は身につけぬ。
褌には威勢のよい「美園屋」の文字。褌ひるがえし、振り返った男の顔には見覚えがある。というか、そんなレベルじゃない。
「お父さん!?」
「おじさん!?」
火星に現れた男は、美園さおりの父、美園軍司である。
「おぉ!さおり!それに勇坊じゃねぇか!うほっ、しばらく見ねぇ間にいい男になったじゃねぇか!」
勇太は心強さを覚えるとともに、背中にうすら寒いものを感じた。
(つづけ)
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1 件のコメント:
よーし、次書いちゃうぞー。
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